09 April

BLOSSOM text part 3



7. RAJAMATI KUMATI (traditional)

 こちらは特定しようと思って録音を始めたら、姿が変わってしまった曲。もともと、この曲は以前のリハーサルで練習したのだがうまくいかずお蔵入り。今回の選曲も候補すれすれでプリプロダクションでも録音しなかったが、ちょいとした遊び心でリズムループを組みボーナストラックとして入れてみようかと思っていた。なので、構成もいい加減なまま、編集でベーシックを作り、スライドギターを録った。それだけでボーナストラックとしては成立するかと思われた。もともとネパールのブラスバンドの曲で桜井が参加する大熊ワタル主宰のシカラムータの1stアルバムでも取り上げられているが、シカラムータ・ヴァージョンはスピード感溢れるソリッドなロッキン風味に対し、ここではオリジナル(Frozen Brass-Asia-所収)のグルーヴに近い感じにしてみた。ただ、もっと遊びたくなり、バンジョーを録った。こりゃまたもっと遊びたくなり、ペダル・スティールも録る。この頃にはボーナストラックと言う考えは薄れてきて、更に田村が遊び心満載でラップ・シタールを弾く。これが決定的。ネパールなのにインド風味。良いんじゃないか、隣どうしの国だし、という安易な偽ワールドミュージックみたいなもんだが、マデシ運動の事ぐらいは少しだが認識している。


8. バーレイコーン挽歌  - BARLEYCORN ELEGY - (桜井芳樹)

 さて、アルバムも終盤。5曲目の「土地の名」と並び『CANDELA』以降2007年からのレパートリー。トラフィックでよく知られるトラッド「John Barleycorn」に一部コード進行が似ていたので、仮タイトルとして「バーレイコーン挽歌」としていたのだが、他に思いつかず、また語呂も気に入ったので、そのままタイトルにした。挽歌、とつけたのは朗々と口ずさむとなんだか昔のウィスキーのCM曲のようでもあったからだが、その昭和感と原田康子「挽歌」はそれとなく結びつく。昭和30年代、今よりもっと最果てだった釧路での女の子感満載の残酷な小説。男というのはこの、女の子感、を少なからず持っていると思うが、そんなものは隠すに決まっている。だから、エンディングでは三人(田村、原、桜井)でコーラスをしてみた。まだまだ、酒臭さが足りないかとも思ったが、酒は本当に好きなので、そんな事を音で表す必要も無いだろう。松永のサザンソウルのようなメインマンぶり、原の一つの灯火から突如きらびやかになる音色、そして、桜井の書いたメロディを首を垂れるが如く、かつ、希望を垣間見せる田村の唄い口は特筆だろう。余談だが、コーダ前の一度終わるところはBob Dylan「Ballad of thinman」の真似。


9. WALTZ FOR SALI (桜井芳樹)

 最後の曲は10年程前に書いた小品のワルツ。たまにはこういうのも良いだろう。おやすみなさい。


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08 April

BLOSSOM text part 2



4. BLACKBERRY BLOSSOM (traditional)

 なので、これはクールダウン。ブルーグラスの有名なチューンの一つで、原にこの曲の事を尋ねると、即座に高速で弾き始めた。桜井はNorman Blake & Tony Rice版でこの曲を知ったのだが、原の演奏を聴いて、ものにしたいと思い練習するが一向に早く弾く事が出来ない、というより、メロディにより親しみを憶えたのか、どんどん遅くなっているではないか。と言う訳で、遅いテンポのままにこの高速チューンはロンサムストリングスのレパートリーになる。そして、こんなテンポで演奏するヴァージョンなんて無いだろうと、ほくそ笑んでいたら、既にBill Frisellが同じようなテンポでやっていた。なので、原の力を借り、後半部はロンサムストリングスなりの速さで演奏、バンジョーの独奏を含み「誰が荒野を目指すのか」(CANDELA所収)とメドレー形式でやっていたのが2006年。シンプルに演奏して録音をするという今回のアルバムの趣旨に沿っていたので、単独で収録する事にした。ただし、今回は後半部を6/8拍子のジグにしてみた。あたりまえだがアイルランド民謡みたいになった。ライヴでやりなれていた所為もあり、全員がほとんどテイクを重ねる事無く録音された。こういうテイクはミックスも早いのだ。


5. 土地の名  - THE NAME OF THE LAND - (桜井芳樹)

 それに比べ、この曲は演奏、ミックスとも少し手こずった。間が取りづらく、音数が増えてしまう。なので、メンバーそれぞれ少しテイクを重ね、多少ストイックとも言えるものに仕上がったが、ミックスの最中に何度も睡魔に襲われた、ということは程よい塩梅のストイックさが成功した証だ。録音中、松永に、本当は具体的な土地の名前をタイトルにつけたかったのか、と問われたが、もともとその気は無かった。ただ、それでも良かった。これを聴いて特定の場所を想起する人がいるかもしれない、人にはそれぞれ場所があり歴史がある、それらをふと思い出したりするかもしれない。また、睡魔を誘う曲とも言えるので、それは夢かもしれない。そんなこと含め、土地(または場所)、という言葉を使ってみただけなのだ。


6. INBETWEENIES (Ian Dury、Chaz Jankel)

 そんな特定するのか、しないのか、といった曲の後に、1979年のIan Dury & The Blockheadsのヒットアルバム『DO IT YOURSELF』の一曲目のカバー、といったらある人にとっては特定されること間違いなし。単に桜井の天の邪鬼さが出た選曲及び曲順だ。(ちなみに桜井が見た来日アーティストのベスト・コンサートの一つがIan Dury & The Blockheads初来日の後楽園ホール) 間奏に少し手を加えた以外はさしたるアレンジはしなかった。唯一今回初めて演奏する曲で、プリプロダクションで譜面を見せたら、松永がサビを口ずさみながら、すぐさまリフを弾きだした。ベーシストNorman Watt Royにそっくりだった。Ian Duryを知っている人は原曲を聴きなおしてみたくなり、知らない人は聴いてみようと言う気になったりすれば、このカバーは成功なのだ。


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07 April

BLOSSOM text part 1


 MIDIからの要望でプレス用にアルバム『BLOSSOM』の曲目解説を書いた事を思い出した。酒をなめながら一気に書いたのだが、数回に分けて載せてみよう。

 その前に少し加筆。

 アルバムタイトルは最初シンプルに『4』としていたが、3拍子系の曲が多い事もあり、なんとなくその案は却下。その後『LAND』というタイトルをつけ、ジャケットデザインまで出来ていたが、土壇場でジャケットの色や1月発売という事で『BLOSSOM』に変更。Blackberry Blossomという曲が収録されている所為もあるが、ブロッサム・ディアリーにもあやかってみた。そしてアルバム発売後彼女の訃報を知った。

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 今回のアルバムは8時間のプリプロダクションの末、個々の楽器をもっと近く響かせたい、とか、もう少しシンプルな演奏が良かったのでは無いか、とか、前作『CANDELA』がホールでの同録をベーシックにしているという事もあるので、あえてライヴに近いのは避けよう、とか、前作のミックスに相当手こずった桜井の要望、とか、単にメンバーのスケジュールの問題、等々、の理由で、プリプロダクションで録った音源のそれぞれの音を後に差し替えて録音は完了した。結果、簡単なリズムトラックを使った2曲をのぞけば、ほぼどの曲もメンバー四人の4トラック(楽器を持ち替えている箇所もあるが)で成り立っている。4枚目にして最もシンプルなアルバムとなった。


1. REMEMBER (Irving Berlin adapted John Fahey)

 だが、この曲はプリプロダクションでは演奏しなかった。当初は収録曲予定からもオミットされていたのだが、プリプロダクションで録った内の5曲を今回は見送る事にして、ライヴでよくやっているこの曲を制作終盤に録音。Irving Berlin作曲のこの曲はBillie Holidayの音源で知る人も多いと思うが、ここでの演奏はJohn Fahey晩年のアルバム(RED CROSS,DISCIPLE OF CHRIST TODAY)版を参考にしている。大好きな曲をただ演奏しているだけで、結局弾いていると盛り上がってしまう。が、エンディングで松永のメロディは何事もなかったかのようで、この曲が引き締まったものとなった。


2. 南の噂  -UN RUMOR SUR -(田村玄一、桜井芳樹)

 そして、いきなり原ならではの乾いた哀愁の音色のバンジョーがメロディ。発売前のライヴでは2度程演奏しているが、今回ようやくアレンジがまとまった。当初の田村作曲の部分はもっとラウンジ感が強く、桜井がアストル・ピアソラ風のフレーズをつなぎ合わせたりしたアレンジを施していたが、後に3拍子の部分を桜井が書き加え今の形になった。しかし、やはりラウンジ感は必要だったので、リズムボックスは使用。ここで言う南とは南国土佐や常夏のハワイでは無く、南半球での南、なのでスペイン語のタイトルも付けてみたが、感覚で言ったら日本人にとっては、北、に近いのだろう。最果てに向かう途中のたわいもない出来事のような曲、とでも言おうか。


3. 二十世紀旗手  - 20 SEIKI KISHU -(桜井芳樹)

 でも、ここではもう南に向かう事はどうでもよくなっているのか、そんなものはただの噂だった、という感じで演奏。リフを組み合わせただけのシンプルなこの曲はもともと桜井が参加するSTRADAの1stアルバム『山道』に収録された楽曲。1994年頃の作曲で、タイトルは太宰治からの拝借。当時はキングクリムゾンみたいな曲と言われた事があったが、実はキングクリムゾンをほとんど知らず、本当はDollar Brandみたいにやってみたかったのだ。ロンサムストリングスではSTRADA版は全く無視して、演奏のガイドもかねて仮のアコースティックギターをベーシックにまったりとやった。が、その仮のアコースティックギターをミックス時に復活させるとなかなか不思議な塩梅。なのでこの曲は5トラック。田村は怪しげに音を響かせ、原は要所要所でブルーグラス・リックを弾きつつもすぐ自分の仕事に戻る。桜井だけが妙にはしゃいでいるのは、仕方がない事か(笑)。



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