Archive for 01 February 2018

01 February

このレコードを聴くな その2


Van Morrison / Wavelength (1978)

 2016年8月号のレコードコレクターズのヴァン・モリソン特集に原稿を依頼され、文章を書いたのであるが、その時に自分がもっている彼の全てのアルバムを熟聴した。その時の原稿は私の仕事柄と編集部の意図する違う角度、という事からモリソンに仕えたギタリストのことを書いたのであるが、折しも『It's too late to stop now』の再発やその未発表音源が発売されるという事で、あえて『Moondance』『Tupelo Honey』の初期作品を取り上げた。そして、大好きなアルバム『Veedon Fleece』のRalph Washに言及し、字数が尽きてしまった。実はもっとも良く聴いたモリソンは、『Astral Weeks』を別にすれば、その次の『a period of transition』から『Irish Heartbeat』なのだ。

 モリソンの凄さに驚いたのが、何と言っても私の世代では何と言っても "ラストワルツのキャラバン" という方も少なく無いであろう。私もその一人で、その後にまず過去作品を中古盤で探したクチだ。なので、リアルタイムは『into the music』まで進んでいたのだ。ただ特殊な事情があって、私が大学時代に参加していた音楽サークルでは、もう82年頃だが、『a period of transition』がなんだかリアルタイムのように聴かれていたのだった。このアルバムのギタリスト、マーロ・ヘンダーソンについて先のレコードコレクターズで触れられなかったのは誠に残念であるが、『a period of transition』から『Irish Heartbeat』そして『Hymn to the Silence』は私のリアルタイムと重なり、モリソン自身が年齢的に最も脂が乗り切った、しかも過去のしがらみから開放され、のびのびしていた時期と感ずる。

 が、そんな中、名作『a period of transition』と『into the music』に挟まれたこの『Wavelangth』はモリソンの駄盤候補に熱烈なファンでも一票を投じるであろうという作品だ。原稿執筆時も聴いたのだが、今回また何故か気になって聴いてみた次第だ。

 モリソン本人は凄い。絶好調の発声。私が持っているアナログは1stプレスではないし、この時代のリヴァーヴ処理は気になるが、それでも生々しさは感じることが出来る。それは揺るがない前提だ。

 あくまでも私にとってだが、結論を先に言うと、このアルバムはA1とB1は聴かなくて良い。そうするとかなり楽しめる。A2からの4曲は次のアルバム『into the music』に続くリラックスさ、そしてB2からの3曲はその後数作のスピリチュアルな雰囲気をわかりやすい言葉で投げかけているのだ。おそらくこの時代モリソンが出来るポップを具現化した作品であることは間違いない。

 とは言えアレンジに難も感じる。A2、絶妙な軽さ。シンセとオルガンの併用も悪くないし、コーダもよく考えられてはいるが、だったらフェイドアウトは残念。A3、リズムは自然にアレンジされていて悪くないが、ギターリフは?というかダサイかな。そのボブ・テンチの待ってましたとばかりのオブリガードは脳内で消す。A5、リズムのレゲエ風味は時代を感じるが、リラックス度はピカ1。ガース・ハドソンのアコーディオンも良い。A5、コーラスアレンジにかなりの工夫、前作のドクター・ジョンの影響か? コード進行はピーター・バーデンスのテコ入れがあっただろうな。今ではそれはむしろ避けたい響きかも。でも良い曲だな。B2、その後のモリソンの道を示した名曲。クマ原田さんのベースが深く響き過ぎてキックとのバランスが良くないが、それがここでは吉。B3これも名曲。この曲だけ柔らかめの声にしたミックスあるいはマスタリングは吉。惜しむらくはテンチのプレイかな。この曲に限らず、既に始まっていたNew Wave時代、エレキギターの衰退を感じさせすぎるのだ。B4はこのアルバムの白眉。モリソンの代表曲と言っていいくらいの名曲でよく考えられている。ただB2では意図しない効果だっただろうベースとキックの関係はここではいまいち。バーデンスのピアノはキラキラしていて少し小賢しいが、まあ良い仕事で収めた。ガットギターの配置もグッと来るし、テンチのプレイもこのアルバムでは一番好感が持てる。そして、地味ながらハドソンのオルガンは流石。なによりモリソン節のメロディと歌い回しは唯一無二だ。

 ちなみに聴きたくないA1はキラキラのピアノと決まりきったギターアレンジ、それだけで萎える。ハドソンのシンセソロの後半は流石だがミックスで押さえられて残念。B1これがアルバムタイトル曲だというのが、おそらく全ての元凶。この軽薄さ、ダサさがこのアルバムの悪いイメージなのだ。シンセのフレーズと被さるビートとギターコード全くワクワクしない。そして何と言うかMTV感だな。もちろんこの時代を考えればモリソン本人のソングライティングはそれなりに対応した2曲ではある。そう言う意味では聴く価値もまあある。

 数年前、湯川潮音さんとの仕事でクマ原田さんとご一緒したことがあった。もちろんこのアルバムの録音時のエピソードも聞いた。クマさん参加曲は一曲一週間くらいかかったらしい。モリソンはスタジオで曲が降りてくるまでメンバーはひたすら待機させているいるとのことだ。ギャラは日数分貰えるので、クマさんは何の問題も無かったが、とにかく曲が降りて来た時のモリソンは凄まじく、何が起こったのか把握出来ないまま無我夢中で気がついたら一曲録り終えていたという。

 とにかくこのアルバムはいろいろ文句もあるが、脳内でいろいろ差し引いたり、想像したりすると、かなり楽しめる。なによりそれをさせるのがヴァン・モリソンの存在なのだ。


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