Complete text -- "Third Ear Band"

04 April

Third Ear Band


 
 子供の頃、家にサンスイの家具調ステレオがあったのだが、とにかく、この装置でいろいろな音楽を聴き始めた。そのサンスイが民事再生法か。うむ。

 サンスイの話で思い出した。

 中学生の頃に一時期通っていた理髪店の話。そこは外見は通常のどこにでもある床屋だが、一歩中に入ると、客がいないときはいつも大音量で音楽がかかっている店だった。ステレオセットはかなり忠実していて、メーカーは覚えていないが、プリアンプ、メインアンプ、チューナーとすべてがセパレートされたセットだったのだ。そしてスピーカーは録音スタジオのラージモニターよろしく鏡面壁の上の天井付近に埋め込まれるようにセットされていた。他のお客さんがいるときはFMを流していたが、私一人の時はよくレコードを掛けてくれた。私としては、市立図書館でレコードを片っ端から借りまくっているときで、これと言って自分の好みが確立された時期ではないのだが、なんとなく、泥臭いものやブルースを感じるものが好きになり始めていた頃だったかもしれない。

 いつしか、店主と音楽の話をしたことがあったかは定かではないが、これ最近気に入っているんだ、といつも違うレコードをかけてくれた。理髪台は三つならんで設置されているが、真ん中がちょうど、LRスピーカーのセンターに位置するので、そこに座らされる。

 最初はクラフトワークのアウトバーン、だったと思う。私はピンと来なかったが、髪の毛を切られながら聴くのは悪くはないとも思ったし、髭なんかまだ生えちゃいないが、顔に刃をあてられ、蒸しタオルで椅子を倒して聴いているとなかなかに心地良い。

 その後、ジェネシスやタンジェリンドリームもかけてくれた。店主は何となく感想を求めてきたが、気の聞いた事は返せなかったと思う。

 その後、しばらくして店を訪れると、これは気に入ると思うよ、と言って、サードイヤーバンドをかけた。どうやら彼は私がアコースティックな音が好きなのでは、と察知したのだろう。が、当時の私がピンと来たかどうかは記憶に無いし、ついさっきYoutubeで見つけるまですっかり忘れていたのだが、バンド名とこのジャケットは忘れてはいなかった。

 ただ、音楽の趣味は別にして、ここはとても音が良かった記憶がある。というか、そんなに本格的なオーディオなんてそれまで聴いていなかったのだ。だから、ここで音を聞くのがとにかく好きだった。

 レコードの感想はまともに返事出来なかったが、音が良い旨と伝えたら、とても喜んでくれた。けれども、好きなレコード持って来なよ、とは言われなかった。

 
 

03:18:07 | skri | | TrackBacks
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