Complete text -- "武蔵野うどん"

25 September

武蔵野うどん


 午前中、ゆっくり起きると、家内がうどんを食べに行きたい、と言い出す。私はまだ起きたばかりだし、イチローの打席も気になるので、彼女は一人でうどん屋に出かけた。

 我が家で「うどんを食べに行く」と言う事は、近くの「きくや」か「小島屋」行く事なのだが、この両店、武蔵野うどんの名店として、うどん好きの間ではかなり知られた店で、昼時2時間程の営業でしかもピーク時は行列さえできる。そして両店とも駅から遠く交通の便は良くない。(「きくや」は駅近くに支店もあるが)実は私はどちらかというと「そば好き」の部類だが、この武蔵野うどんはこの数年、少なくとも月に二度ほどは食べに行く。簡単に言うとつけ麺スタイルで、汁は暖かい肉汁が基本で、冷汁もあるがこれはいわゆるもりうどん。そして、揚げ立てではない、かき揚げ天ぷらがつくが、これがまたいいのだ。彼女が今日行ったのは「きくや」の方だが、ここは慣れないと注文がなかなか難しい。メニューの黄色い紙が店内ずらりと貼られているのだが、L、LL、3L、4L.....そしてそれぞれ肉汁、冷汁、天付、ミックス(のり)と書いてある。いちばんオーソドックスなのが「L、肉汁、天付」だが、このLというのがうどんの量を表しているのだ。Lでうどん玉3玉分、LLで4玉、3Lで5玉分....となる。注文は普通LLとだけ言えば、おのずと肉汁、天付のうどん。(まれに夏場暑い日に「冷?」と聞かれた事もあった。そして天無しと言わない限り天ぷらは付いてくる)なので、ほとんどの客がLL、3L...7L、8Lと言うだけなのだ。だいたいLLが普通盛りで大盛りは4Lくらい。ここでメニューをもっと良く見てみると、わずかながら丼のうどんもある。肉うどん、天ぷらうどん、カレーうどんの三種だが、この「きくや」でこれら丼うどんを食べている人はほとんど見かけない、察するに全体の0.5割くらいではないだろうか。「きくや」も「小島屋」もネットで検索すれば、それなりの数の記事を見つける事は容易い。先に述べた注文方法をもっと細かく記してあるサイトもある。が、この丼うどんについて言及しているものは発見出来なかったし、お薦め出来ない、と切り捨てているところもあるのだ。ところが「きくや」の丼うどん、私は大好きで今では二回に一回は注文している。が、ここに通い続けて6年程経つ私も丼うどんを注文出来る様になったのはここ4年ぐらい、それほど注文するのが難しい。難しいと言うのは、先に述べたような方法ではなく、場の空気だ。強いて言えば「ムルギー」で卵入りでは無いものを注文する時の感じに似ていなくも無い。まず、店内ではLLだの3Lだのと言う言葉が飛び交い、働いているおばちゃん達はうどんの量だけが違うものを、流れ作業の様に配膳している。昼時は相当に忙しいのだが、この適度な流れ作業の所為か、おばちゃん達の笑い声ものんきに聞こえたりするので、行列のできるラーメン屋の様な殺気は皆無。だからここで丼うどんを頼むとその流れを遮ってしまうような気に苛まれるのがまず一つ。それからメニューを眺めて「肉うどん」と注文すると、おばちゃん達は一見さんと思い、皆が食べている肉汁うどんを薦めたりする、というのが二つ。それから私は注文した事は無いが「カレーうどん」を注文すると、店内の匂いが激変する、というのが三つ。と、注文しずらい状況だが、「きくや」通いも慣れたある日、店内は空いていた所為もあるが、私は「肉うどん、どんぶりね。天ぷらつき」と言ったら、向こうも私の顔をなんとなく覚えていたのかも知れないが、すんなり注文が通る。念願のきくやの肉うどん、温かくなってもうどんのこしはあり、たしかに美味だが付け汁だと濃すぎて堪能出来ない汁が、これだと普通に楽しめる。それからは混雑時でもこの「肉うどん」を注文する様になる。丼が配膳される時に常連客から不思議そうに見られる事もあるが、これを食べた事があるのだろうか。

 さて、「きくや」のことばかり書いてしまったが、家内がその「きくや」から戻る前に私は久しぶりに「小島屋」に行った。木造の店は今やなんとなくしょぼくれた風情がある。味は「きくや」よりさらに家庭の味で、隣のおばちゃんが家にやってきて作ってくれたおいしいうどん、という感じ。好みだが、麺のこしは「きくや」が上。ただうどんらしさは「小島屋」か。

 いずれにせよ、四国に行っても、蕎麦を食らおうとする私がこんなにうどんを食べる様になったのは、この二店のおかげである。

23:00:00 | skri | | TrackBacks
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