Complete text -- "家"

25 January


 停車場前で頼んで置いた荷物も届いた。夫婦は未だ汽車で動られているような気がした。途中から一緒に汽車に乗り込んで来た夫婦ものらしい人達は、未だ二人の前に腰掛けて二人の方を見て、何か私語き合っているらしくも思われた。あの細君の大きな目--------あの亭主の弱々しい、力の無い眼--------そういうものは考えたばかりでも羞恥の念を起させた。二人は人に見られて旅する事を羞じた。どうかすると互いに顔を見ることすら避けたかった。

 (島崎藤村『家』より)


22:47:31 | skri | | TrackBacks
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