Complete text -- "今日のレコード 12"

17 August

今日のレコード 12


 LAGU2 INDONESIA DALAM KRONCONG BEAT (1985)

 静かな夏を過ごしている。今夏はフェスティバルが一本も無く、都内のライヴも少ない。かつてはニッパチと称され、フリーランスの閑散期と言われたもので、ここ数年ではそれほどでも無かったのだが8月第三週に入っているスケジュールはほぼ無い、とは言え、来週からの制作に向け、自宅システムの再構築に余念がない日々ではある。そして、午前中から動いているので、大変に汗をかく。なので、日が暮れる前にはビールを飲んでいる始末である。

 と、そんな夏だが、夕暮れ時の音楽(と言うか暮れてからも)は何と言ってもクロンチョンだ。ああ、なんて清々しいのだ。

 このアルバムはミュージック・マガジン社が大きく関わっていたスープ・レコードから'85年に発売されたインドネシアのクロンチョンのオムニバスだが、もちろん古い音源が元になっていて、解説によると1965年の録音である。どの歌手を本当に見事で、もう巧すぎて、とにかく心地よく聴き入る。そしてこれぞポピュラー音楽における最高の匿名性では無いか、と感じ入る。

 ご多分に漏れず、この音楽を知ったのはミュージック・マガジンの記事なのだが、その頃、手に入る音源はまだインドネシア版のカセットのみで何軒かの輸入盤店をまわり発見し購入。これがクロンチョン初体験となった。その後スープレコードから、インドネシアのジャイポンガンや小編成のガムランのレコードが発売され、ようやく満を持してかのクロンチョン、それがこのアルバムだ。

 ジャイポンガンやダンドゥットもそれなりに聴いていたが、やはり自分にフィットしたのは何と言ってもこのクロンチョンで、音楽的にも実は相当傾倒した時期があった。とにかくチェロ、ギター、ウクレレ(クロンチョン・ギター)のアンサンブルは見事で、他には類をみない発展であろう。チェロはベースの役割だが、かなり自由な動きで音数も多い。タムタムのように響く時も多々あり、これでもったりしないのはやはりチェロならである。ウクレレは複数あるときも少なく無く、打楽器的な役割であるが、このサスティンの少ない楽器を複数組み合わせて生まれるグルーブはなんとも心地よく、自分でも多重録音で試したものだった。ギターはアルペジオなのだが、これが所謂ポピュラー音楽のコードを低音弦からつま弾くものではなく、ソロ的な単音の組み合わせで、ビートに貢献する。この数々のフレーズは本当によくコピーしたもので、ディレイド・レゾルブが多用されているのが、特徴とも言え、そのままオブリガードになっているように聴こえる事も多い。ディレイド・レゾルブとは文字通り、遅れてきた解決、の事。ジャズでは割と速いパッセージでプリングやハンマリングを交えてこのようなフレーズを組み立てる事もあるが、クロンチョンの場合はアンサンブルとしてビートとより密接なので、ジャズでのそれよりはもっと”遅れて”聴こえるのだ。単純にどんなものか説明を加えると、そのフレーズが一度コードトーンから外れてまたコードトーンに戻り解決という事だ。たとえば、ラ・ファ#・ソとか、シ・ド#・ドとか、メジャースケール内であっても、シ・レ・ドみたいなものもそうである。ハワイアンや昔の歌謡曲でも散見されたが、ロック・フォークの時代にはそう見られず、おそらくブルースやアイリッシュの影響から7thの多用が目立つようになる。とは言え、シ♭・レ♭・ドのようなものもそう多くは無い。とにかく、このような響きがアンサンブルの中で聴こえる事が何よりも新鮮だったのだ。

 そして、それらの上にフルートやヴァイオリンが舞い、さらに優雅に歌がのる。もう時折、音楽はこれだけあれば十分だろう、と思うときすらある。

 余談だがかれこれ20年、いくつかの仕事でクロンチョン・アレンジをした事があるのだが、好評だったことは一度も無い。まだまだ精進せねば。

 
 


 

03:08:33 | skri | | TrackBacks
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