Complete text -- "今日のレコード 10"

30 July

今日のレコード 10


 Richard & Mimi Farina / Memories (1968)

 またまた吉祥寺ハバナムーンの話から始まるが、少し前に店主の木下君からレコードを一枚いただいた。Plainsongの『In Search of Amelia Earhart』、彼らの1stアルバムだ。この店では幾度となく聴いていたアルバムだが、このほど木下君がこの盤のオリジナルプレスを購入した事で、今まで店でかけていた国内見本盤のこれを私に譲ってくれたのだ。初回のオリジナルプレスは確かに良い。そして、70年代初期の国内盤プレスはあまり良く無いものも多いのだが、見本盤はその中でも初回プレスになるので、案外音質が良いものも多いのだ。

 丁寧にクリーニングして聴いてみると、国内盤らしからぬ快活な音。良いではないか。まあ、なにより内容が素晴らしいのだが。そして、レコード内周ではきっちり歪む。

 これがアナログレコード最大の弱点とも言える。これはどう機器をグレードアップしても解決の出来ない問題なのだが、この歪みが顕著なのものとそうでは無いものがある。おそらく、周波数的な情報量の差だろうが、トータルレベルも関係している気もするのだ。内周で歪みが目立つ盤の外周はとてもはっきりと鳴っているものが多いように思うのだが、どうだろうか。

 それはさておき音楽の内容には関係ない。内周がそんなに気になるのであればCDを聴けば良いのだ。

 さて、Plainsongの良さを再認識したおかげで、Ian Matthewsの『If You Saw Thro' My Eyes』に行く。これも久しぶり。ジャケットを開くのは10数年振りか。そういや、リチャード・ファリーニャの曲が入っていたな、なんて事を思い出していたら、B面にもファリーニャの曲があった事にようやく気がついた。「Morgan the Pirate」マシューズは4拍子でやっているが、オリジナルのRichard & Mimi Farinaは6/8拍子。マシューズ版はリチャード・トンプソンを差し置いてのティム・レンウィックの落ち着いたギターが見事。(ちなみにLee Morganのそれとは別曲)

 そして、その「Morgan the Pirate」が収められている、Richard & Mimi Farina『Memories』へ。リチャード&ミミ最後のアルバムだが、これはリチャードの死後にリリースされた未発表テイク集。だが、このアナログのジャケットは良い。思わずジャケット買いした一枚だ。(CDはミミのバストアップにトリミングされてしまったのだ)

 ミミ・ファリーニャは残念ながら私には行き届いた歌手としての認識は薄いのだが、彼女がソロで歌ったものはとても特徴を生かしていて、心を奪われるものも多い。線も細く、押しも弱く、声の頼りなさが印象的で、しかもこのアルバムのB面中盤には姉のジョーン・バエズも登場してくるので、ミミは確かに分が悪い。が、ここでの「Morgan the Pirate」はやはり素晴らしい。Grady Martinがアレンジを担当し、ensemble ledというクレジットがあるが、おそらく演奏はナッシュビルAチーム周辺、間奏の突っ込み気味であおるエレキシタールと時折の確実なエレキギターはGrady Martin本人であろう。なにより、ミミの声をダブルにした効果は抜群で儚げな力強さはメロディーを重ねる毎に引き込まれてしまうのだ。

 もともと、この『Memories』というアルバムは、ミミのソロもしくはリチャードのトリビュートとして計画があったらしい。どちらにするか決まらぬまま、彼女はソロの録音を開始し、その一曲がこの「Morgan the Pirate」(もう一曲が冒頭の「The Quiet Joys of Brotherhood」でこちらは「My Lagan Love」の改作)。で、どういう訳か当初の計画はどちらにも転ばずこの『Memories』という、アウトテイク、新録、ライヴ音源、ジョーンバエズの音源、が交ざったなんとも中途半端なアルバムになってしまう。プロデューサーの名前はクレジットされていないので、突貫工事的で契約上の問題もあったのかも知れない。それでも彼らの多様さは垣間見えるし、その後のアメリカーナ的解釈も荒削りながら、面白い。

 問題というか、結果オーライなのだが、この「Morgan the Pirate」はA面最後。最内周なのだが、Grady Martinが作ったこのドライブするオケとミミのダブルトラックの歌声が内周の歪みにとてもマッチしているというのは、おそらく偶然だろうな。


 


 (Farinaのnには~がつくのだが、ここではスペイン語が文字化けするようなので、nにしました。ご了承を)



12:40:30 | skri | | TrackBacks
Comments

skri wrote:

 思い出した。晴海のローリング・ココナッツ・レヴュー('77〜'78年くらいかな)で観たのでした。ソロもあった気がするけど、バンドでもあった記憶が微かにあります。なにより、フレッド・ニールの格好良さは覚えております。
07/30/13 21:22:39
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