Complete text -- "今更だが、Folklore Session 後記"

01 May

今更だが、Folklore Session 後記


 昨年のLonesome Strings and Mari Nakamura@青山CAYの後、Folklore Seeeion後記をなんとなく書いたのだが、ミスをして捨ててしまった、と思っていたら、ちゃんとファイルが残っていた。以下、昨年の10月初旬に書いたものだが、折角だから載せてみよう。

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 6月に発売されたアルバム、Lonesome Strings and Mari Nakamura『Folklore Session』は多くの方より賞賛の声をいただきました。誠に嬉しい限りです。そして5月の東京での先行発売ライヴ、6月の京都、名古屋と渋谷でのイベント、7月の東京、福岡、岡山、神戸、豊橋、フジロック、それから9月の東京・青山、とどこも沢山の方にご来場いただき、こちらも誠に嬉しい限りです。感謝いたします。
 ひとまず、9月の青山CAYでロンサム・ストリングス&中村まりのライヴ活動は一段落。と言うか、来年の計画はなきにしもあらずですが、予定は無いです。とは言え、そう、もう一本10月14日にスタンリー・スミスのフロントアクトを中村まり&ロンサムストリングス・トリオで務めます。これは割と急遽決まったスケジュールで、玄さんは既にNGだったのですが、その旨をトムズ・キャビンの麻田さんに告げたところ、じゃあ、残りのメンバーででも、という事になった次第で、放課後のセッション、とでも言いましょうか、そういう気軽な感じがあるかと思います。


 以下、Folklore Session 後記。

 気軽、と言えば、先月のCAYも割とラフな感じだった、と言えよう。チューニングを間違えたり、弦が切れたり、とかこのセットではあまり起こらないアクシデントの所為だけでなく、ステージ上がそれまでよりオープンな空気でこの5人のバンドがツアーを終えて、次のステップに入ってしまったのだ。バンマスとしては、おいおい今日はひとまず一段落なんだから、もうちょっとシックに決めて、このツアーのライブの完成形で臨もう、なんてちょっとだけ思ったが、誰がどうした訳ではない、そんなヴァイブレーションとでも言おうか、結局自分が率先して巻き込まれてしまったのだ。だが、この音楽性において、この現在進行形感はとても嬉しく、楽しく、もちろん終演後美味い酒を飲んだ。

 『Folklore Session』録音は昨年7月に伊豆にてほぼ終了したが、その後、少しの録音とダビングを東京で行い、8月には録りは終わっていた。ミックスは他の仕事の都合でかなりスローペースだったが、12月にはほぼ終了した。年明けにほんの少しの修正をした。ミックスを詰めに詰めると、かなり細かいところまで細部を検証するのだが、中村も同様に細部をつついてきた。最後は0.5dB以下のやりとりになり、2月頭にミックスは終わった。

 が、ここからもう一山。年明けから、何となくは考えていたが、ジャケットデザインとマスタリングだ。共に予算内で最良の方法を取ろうと熟考する。
 
 マスタリングはMIDI側からもいろいろ提案があったし、『candela』以降のやり方で時間をかけて修正して行く方法も考えないではなかった。が、ふと、2ndでマスタリングをお願いした高橋健太郎さんに気軽に連絡してみたところ、DSDマスターを推奨してくれたのだ。

 実は伊豆スタジオの録音エンジニア濱野氏の仮ミックスはとても良くて、ニーヴのコンソールの威力をまざまざと感じた。曖昧な部分がとても良いのだ。Pro Toolsでの録音だが、ちょっとしたアナログ感が心地よかった。が、自宅で立ち上げてみると、その曖昧さはあまり魅力的では無かった。少し痩せても聴こえる。仕方ない、なにせ自宅ミックスなのだ。だからおのずと曖昧な部分より、各楽器の距離感を感じさせる方向となる。ミックス面で至らない部分は、まあ散見するが、これは仕方ない。ミキシングの経験不足は否めないし、たいした機材も無い。誰でも使っているMacだ。(OS9.2.2なので、今や誰も使ってないか)

 ほぼ、ミックスが終わった年末から年明けで、ジャケットの案がまとまり始める。中村まりもロンサム・ストリングスも過去のアルバムで自分たちの写真をジャケットにした事は無かった。内容も音楽的にシンプルなので、メンバーのポートレイトは適切だし、ロンサムの1stでやった手の写真の新バージョンも撮りたかったのだ。手の写真、という事でシカラムータで何度か写真を撮ってもらった中島古英さんに連絡を取った。彼女が撮った老人の手の写真が脳裏に焼き付いていたのだ。白黒で、と言う提案をしたら、彼女から、ではアナログでいきましょう、との意見。その後の選定や現像等で手間がかかるが、やはりこの質感は好きだ。

 写真撮影は3月6日の日曜日の拙宅の近く。なにやら茂みが鬱蒼とした感じだが、実はたいした規模ではないし、よく見ると後ろに学校もあるのだ。それでも我々が立っているところは小さな沼のほとりで、天気にも恵まれ白黒の緑が渦を巻いているようにも写っている。今にして思えば、3月11日以前の最も天候の良い暖かい休日だったのだ。

 さて、写真は現像待ちでマスタリングに取りかかる予定だったが、3月11日がやってきた。拙宅は花瓶が一つ割れたくらいだったが、健太郎さんのスタジオはそれなりに被害もあり、マスタリングは一週間延期となった。ただ、その一週間はとても意義があった。クールダウンし、マスタリングの方向がより明確になった。そういう意味では震災の影響があったのかもしれないが、それよりもスケジュールの余裕のほうが大きい。
 
 マスタリングは二日間で終了した。その後の修正もたいした変更は無く、マスターが出来上がる。そして、デザイナーの守屋秀華さんと本格的なデザインの作業に入る。もうこの頃は一日に何度もメールやファイルのやり取りをして、守屋夫妻には随分わがままを言った事であろう。ジャケットの折り方も相当悩んだ。初回プレスは外側紙ケースがつくが、それ以降はプラケース仕様になる。なので、折り方もしくは向きを変えるだけで、全員が写ってるプラケースのジャケットが見えるように工夫した。

 そして、私は同時にライナーも書き始めた。ライナーにも書いたが実は当初、中村、田村、桜井での対談形式で収めようと思った。半分程まとめ中村に送ったところ、かなりのヴォリュームなので、対談形式抜きで私がまとめた方がよいのでは、という提案だったので、改めて書き始めたのだ。ところが、ライナーの紙の大きさが限られるので、字数も難しい。中村からは対訳原稿も届き、ますます字数は増える。MIDI担当と相談し、なんとか紙を大きくしてもらうも、守屋さんとは字の大きさと改行やスペース、読みやすさのバランス等、ぎりぎりまで検討する。この制作の中で一番苦労した作業だろう。

 CD盤面のデザインがBuddy Miller's The Majestic Silver Stringsに似ていたのは、もう稿了の後だったが、まあ誰でも考えそうな事だ。あえて言うとFolklore Sessionの方は使い古しの弦だ。

 発売されてから、ジャケット周りのミスに気がついた。私は誤字・脱字に関してはかなりの自信を持っているのだが、やらかしてしまった。中村がそれとなく教えてくれた。トレー下の70年代のマーチン弦のパッケージを模したデザインをそのままTシャツにする案を彼女に話したところ、だったら誤字も直した方が良いですね、と言われ初めて気がついた。大急ぎでTシャツの版下を直し、事なきを得たが、ジャケットの誤字はショックだった。が、まあ仕方ない。

 もう一点のミス、これは私も守屋さんも勘違いしていたのだ。しっかり確認すれば良かった。紙ケースの中面に変な写真があるのだが、糊しろの所為で、ますます訳の分からんものに見える。てっきり、糊しろは上にあるものだと思い込んでいたのだ。ぎりぎりの行程だったので、確認の通知のなく、仕方が無いが詰めが甘いと反省しきり。

 ちなみにこの写真は旧日立航空機の変電所である。太平洋戦争の遺跡として保存されているのだが、壁面が爆撃痕だらけなのだ。私が携帯で撮った写真なのだが、この日はとても晴れていた事はよく覚えている。


23:55:00 | skri | | TrackBacks
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