Complete text -- "酒について"

20 March

酒について


 今やっている作業が確実に明日終わる、という状況を前にして、ゆっくりと酒を飲んでいる。明日、一段落ついたからといって、派手に飲む訳ではない。多分、今日と同じか、いや、明日はもう次の事を考えていると思うので、今の方が、落ち着いた美味い酒かもしれぬ。美味い酒、といってもたいした酒ではない。一応、本格麦焼酎だが、近くのスーパーで一升1000円くらいで買えるものだ。これを薄いお湯割りにする。結構、薄い。お湯7、焼酎3くらいか。これを4〜5杯くらいはいつも飲む。今はまだ二杯目である。

 実は日本酒はそんなに飲まない。と言うか、自分で買う事はほぼ無い。ただ、旅の冬、居酒屋で時折、熱燗を注文する。この場合、甘めの酒の方が、性に合う。この間の佐賀・小城での日本酒は、そんな私の好みに合った。その日は日が落ちてかなり冷えたので、本番直前に燗酒を引っ掛けた。その後残りをちびちび飲みながら、弾いていた。

 ここ二年ほど足を運べていないが、名古屋の大甚本店でも必ず燗酒を注文する。ここの酒はほんのり樽の香りがし、落ち着く。よくよく思い起こせば、何度か足を運んだ好きな店では、熱燗を頼む事も少なくはない。多分、あの猪口で少しずつ呑む行為が心を静めるのだろう。

 私は若い頃は酒が苦手だった。20才代半ばの夏、とても暑い日になんとなくビールを口にしたら、とても美味かった。それ以来、ビールは欠かさなくなった。それから20年近くは家にいれば、家内と毎日3リットルは呑んでいた。ヨーロッパツアーに行けば、ケーターリングでビールばかり呑む。ドイツではスーパーで買えば、500ml缶が100円もしない。なので、ランチ時にも飲む。太る体質ではないのだが、それだけ飲んでりゃ、まあ太る。それにビールは経済的にも効率が良いとは言えない。なので、4年ほど前から、焼酎路線になる。ホッピーかロックかお湯割り。それだけで10キロ近く体重が減った。

 もう先月の話だが、仕事上のとある5人くらいの飲み会に参加した。珍しく私が一番年下だった。一人が群馬県出身だったので、なんとなく上毛カルタの話をしたら、目を輝かせて、話が返って来た。家内が群馬出身なので、私はたまたまこの上毛カルタの事を知っていただけなのだが、群馬県人にとっては、これは踏み絵みたいなものかもしれず、また、地元での浸透度と裏腹に他地域にはほとんど知られていないものなのだ。
 酒の席での郷里の話は面白い。先の一人が上毛カルタから下仁田こんにゃくの話をすれば、他の一人が北海道・日高の話を始める。皆、渋谷・六本木界隈で夜な夜なスタジオのこもって仕事をしているのだ。そんな話に思いがけず嬉しくなる。自分の先輩にあたる世代が、どんな状況で海外の音楽を聴き、今に至っているか、なんて話はもう涙が出そうになるのだ。

 酒と郷里というのは人の距離を縮める。その土地のなにか一つを知っているだけでも、見知らぬ人は心を開いてくれ、時にはもてなしたりしてくれる。たとえば、吉良の居酒屋の主人に吉良上野介について尋ねてみた時しかり、松山で野球の話をした時しかり、都城でケーブルテレビの話をした時しかり、である。

 ただ、地方のポツネンとした居酒屋の女将が篠ひろ子である事は、まず無い。多分無い。が、過去、永島瑛子は二人いた。

 やはり、酒は未来にはあまり向かない。過去と現状である。確か、姫路の居酒屋だったが、二席くらい空いたカウンターでそれまで小1時間は何も会話をしなかった、おそらく風俗譲は少し酔いながら、私に話しかける。「兄さん、さぁ、お子さんいるの? うちの子いま大変なのよ」と、話しかけてくるのだが、答えが欲しい訳ではない。アレルギーや学校の問題を淡々と続けるのだが、ただ聞いてほしいだけなのだ。

 会話は無かったが、函館五稜郭交差点近くの繁華街。11月でもう寒い頃。(前にも書いた話かも)ひとしきり呑んで、仲間と別れた私は一人でラーメン屋に入りカウンターでビールを注文。夜中、2時前だが、この辺りは客待ちのタクシーで通りは賑わう。店のカウンターは2、3席離れて、私より年上の男女カップル。特に男性は60半ばといって間違いない。もしかしたら女性は私とそうは変わらない年齢だったのかもしれないが、明らかに夜の仕事の女性。私はビールを飲みながら、塩ラーメンを待つ。そのカップルは笑いながら談笑、酒はもちろん入っているだろう。しばらくして男がトイレに席を立つ。店のAMラジオで「氷雨」が流れている。この曲、サビのメロディ、結構良いんだよな、なんて思って耳を傾け、なんとなく一人になった、その女性に横顔が目に入る。彼女は声には出してはいないが、酔っていても容易い読唇。「外は冬の雨、まだやまぬ〜」カウンターの方を向いた横顔だが、もっともっとずっと遠くを見ているように思えた。その直後、ちょっと目が合ったが、同時に連れの男がトイレから出てくる音が店内に響き、私の目の前には塩ラーメンが置かれた。なかなか美味いラーメンだった。

 さて、お湯割り4杯目も終わるか。

 折角なので、演歌っぽい写真でも(御免)

 

04:50:00 | skri | | TrackBacks
Comments

グレコのレスポール@松戸 wrote:

ちょい、ご無沙汰ですな。酒の話、良かった。
そう言えば、うちの家人も群馬..。
03/21/09 20:58:57

skri wrote:

 おっ、久しぶり。群馬はどちらですか? 家内は藤岡です。
03/22/09 01:40:29

グレコのレスポール@松戸 wrote:

うちのは桐生です。上毛カルタについて、所帯を持って以来初めて聞いてみたら当然のようにスラスラ...。
面白いですねぇ。
03/22/09 14:24:38

skri wrote:

 桐生は日本の機どころ
03/23/09 20:03:55

グレコのレスポール@松戸 wrote:

ご名答〜
奥方には、ぜひよろしゅうに..。また、都内で。
03/24/09 01:39:23
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