Archive for October 2007

22 October

ピックアップ問題


 先月の湯川潮音さんのライブ以降、ドレッドノートのアコースティック・ギターはサウンドホールのマグネティック・ピックアップをはずしたままである。ピックアップを使わなければならない事が無かったからなのだが、やはり、このサウンドホールに取り付けるピックアップがギターの表面板の振動を押さえ込んでいたことを、痛感した。弾いてみれば、それはただ普通に気持ちよいドレッドノートD-28系の音。もちろん、マーチンに比べれば、きらびやかさや粒立ち等全ての面において、ランクが落ちるのは否めないが、普通にレコーディングセッションで機能し、問題を感じたことは無い。
 が、これがライヴで使用となると、実に厄介。数年前、急な仕事で吟味もせず、DonLaceのマグネティック・ピックアップを装着し、なんとなく使ってきたものの、何と言うか、アコースティック・ギターの増幅に対しては反発する面も多いので、あきらめていた、とも言える。それに、私がロンサムストリングスやソロで好んで使うMartin O-18のあまり一般的でない(ハイファイではない)増幅方法で落ち着いた所為もある。ちなみに、その方法とはサウンドホールにつけたデュアルモンドをRCブースターを通して、テスコかプリンストンで鳴らす、というかステージ上でエレキで使っていたケーブルを単にO-18に差し込むだけの事。(リバーヴを3.5から1.5くらいにはするか)少しだけハイファイにしたい場合は、デュアルモンドとマッキンタイアーの貼りピエゾをブレンドさせ、ビンゴで鳴らしたりもしている、が何れにせよ、イーグルス「Take it Easy」のイントロみたいな事は出来ない(笑)。
 
 それはさておき、普通に鉄弦のアコースティック・ギターをできる限り自然な音で心地よく増幅する事を今一度考えてみる事にした。が、前提としては、本当はマイクのみの増幅が好ましい、とは思っている訳だが。
 ちょっと前に高田漣君と電話で事務的な事を話していたのだが、話はいつのまにかアコースティック・ギターの増幅問題。新製品のピックアップ、等々、あれは良いらしい、とか。だが、おそらくそれで劇的に生の音そのままで増幅され無い事は充分解っているので、少しくらい良くなったとしてもそのリスクを考えると、積極的にもなれない。が、たえず気になる問題なのだ。

 私の好みはどちらかと言えばマグネティック・ピックアップなのだが、これはまあ消去法、ただ、インブリッジピエゾの音が好きではないからだ。ただ、大きな会場の場合、インブリッジピエゾのエレアコをそのままDIへ、というPAエンジニアに丸投げの方が、案外落ち着いたりはする。1ステージ、アコースティック・ギターで通す事はまず無いので、そんな事が言えるのかもしれんが、モニター次第ではインブリッジピエゾの嫌みも気にならない時もある。
 そして、マグネットも実に欠点が多い。最初に書いたように、それなりの重量のものは、トップ板の振動には本当に悪影響。フィンガー・ピッキングやシングルノートではそう気にならないレンジの狭さ、箱なり感の悪さはストロークでは露呈する。

 ネット上をいろいろ見ていると、最近はインブリッジピエゾよりもマグネット+貼付けピエゾが主流になってきた感もある。国内外のアコースティックギターのソロイストの方々の方法をヒントに試行錯誤し、研究されている方が随分いる事におどろいた。その探究心の果てに製品化された方もいれば、新製品の使用感をつぎつぎとアップされている方もいた。(ただ、これは音楽性と音の違いだが、私はギターを叩かないし、デジタルリバーブも必要ではない。ピックアップの話の中にデュアルモンドのデの字もない。音楽性については差っ引いて考えなきゃならんのだ)
 
 少なくとも、貼付けピエゾ再考のきっかけにはなった。O-18に着いているマッキンタイヤーだけで試しに鳴らしてみたら、ちょっと遠鳴り感が多いものの音は悪くない、というか良い。EQいらず。私のは昔の丸いやつだが、現行のアコースティック・フェザーはより軽く、少し期待も出来そうだ。

 現状、アコースティック・ギター増幅の為の機器はかなり豊富にある。そのため、たとえば、貼付けピエゾを補うべく、マグネットをつける、なので、ステレオアウトになるし、両者のブレンダーも必要になる、調整出来るようEQも欲しくなる、、、と、欠点を牛歩的に補いつつ、かなりのリスクが伴う。新製品がでれば、気になる、また試してみる、と、堂々巡り。私も一時かなりはまったが、幸いその頃は製品数も少なかった。(今でもそうだが、当時は出はじめで一番高価だったのがM-Factoryのものだった。自分では試した事はないが、それを使っている人のステージ見た。好きな音ではなかったが、それはその人の音楽によるところが多かったのだが、リバーブ過多でこのシステムじゃなくても、出せる音に思えた)

 やはり、シンプルにすべき、との考えに至った。オーディオでいえば、カートリッジ、スピーカーである。カートリッジはピックアップもあたる、スピーカーはエレキで考えればスピーカーキャビネットとスピーカーユニットなのだが、ラインアウトを想定しているので(ビンゴの使用もライヴハウスでは有効だが、編成が大きい大会場では不向き)その場合のこちらが責任を持てる最終段階はDIという事になる。DI(ダイレクトボックス、インピーダンスを合わせてミキサーに送り込むもの。でいいのかな?ダイレクト・インジェクションの略)はどうもPAエンジニアの領域と思っていたのだが、出したい音を考えればかなりの重要度である。

 結果、貼付けピエゾでかなりの線まで追い込める想定がついた。ただ、ドレッドノートなので、貼付けピエゾをパラレル2系統までは視野に入れる事にした。最初からこれプラス、マグネットでトータルで考えるのは、堂々巡りの始まり。これが良くない、選択肢は少なくしておく方が身のため。貼付けピエゾは、貼付ける位置で音がかなり変わるが、自分のギターの音は自分が一番よく解る、これは根気がいるが自分でやるべき作業なのだ。

 幸いというか、私はアコースティックギターに関してはEQをそう使った事は無い。ハウリング防止のために役立つ事もあるが、それで音を作ろうとは思わないし、根本はそうは変わらない。BOSSのAD-5をたまに使う事もあるが、EQはまずいじらない。なので、EQというファクターは選択肢から外れる。(ちなみにAD-5、絶版になって探している方も多いと思うが、期待してはいけない。DI部はひどく使えず)

 冒頭にふれた先月の湯川潮音さんのコンサート、完全マイクのみでの増幅、という事だったのだが、実は潮音ちゃんのアコースティック・ギターに関しては、ヴォーカルマイクとギターマイクが近い所為もあり、ぼやけるのを防ぐため、補正の意味で彼女のギターのラインを使っていたのだ。かなり微妙なレベルだった気がするが、モニターからのラインの音はインブリッジピエゾにも関わらず、かなりナチュラルな感じで聞こえた。その時エンジニアの広津さんが使っていたのがAVARONのDIだった。リハーサルスタジオのごく普通のPAシステムでも、割と良かったので、DIによるところはかなり大きい。
 よくよく考えてみれば、インピーダンスの適合の為にかなりの情報を犠牲にする場所なのだ。ラインアウトを想定するならば、かなり比重が高い。

 簡単な事から突き詰めていった方がよい。まず、貼付けピエゾ最大二箇所までの吟味。そして、DIの選定。後はその間のケーブルの選定。と、誠にシンプルなもの。なんとなく目星はついたが、このCat's Eye CE-1000の購入価格の三倍はかかる。
 アコースティック・ギターの増幅は、目に見えないまた別の楽器だと思わないとならないのだ。

 と、ここまで書いて思った事が、うまく書けなかったので、箇条書き。

 ●昨今、アコースティックギターピックアップの開発が進んだ所為か、弾き語りや小編成のアコースティックセットの大音量化が知らずに進んでいる。一人であれば、マイクで十分であろう。ただ会場やモニター状況で左右されるタッチを考慮して安定させたいのなら、コンタクトマイクを仕込むのは最も良いのではないか。3人くらいまでのギター系の楽器なら、迷わずマイクだけをお勧めする。もちろん各会場音の聞こえ方が違うので、安定させたいのであれば、ピックアップ等の使用でモニタリングも楽になるが、よほど音楽的に意味がある場合をのぞいて、ピックアップ音は補正用、あくまで、生でアンサンブルを考えるべきである。

 ●昨今のアコギブームの一端だと思うが、エリック・クラプトンのアンプラグドのアコギの音は全くもって好きになれない。ただ、これが認められているのであれば、とある会場でそんな音になってしまっても「まあ、いいか」と言う事になってしまう。情けないが、現実でもある。

 ●サンライズを使い始めたのはかれこれ15年くらい前。もちろんRy Cooderの影響なのだが、私が使っている(今はワイゼンボーン用)旧型はブロンズ(フォスファーブロンズ)弦との相性がすこぶる悪い。一時はghsのホワイトブロンズでしのいでいたのだが、結局ニッケル弦になる始末。

 ●ただ、なんだかんだとサンライズの音は嫌いではない。Ry Cooder「Get Rhythm」の13 question methodはサンライズならではの低音弦の響きがなかなか良い。(多分、マイクとのミックスだと思うが)でも、どっちが好きかと問われたら、私はBoomer's Storyのほうがもちろん好きである。

 ●マグネットでは他にLRbaggsのM1も頭の片隅にはあるが、これは、良いときと悪いときの印象が激しすぎる。ただ、総じて、このピックアップが拾うボディ(マグネットなのにボディの振動を拾うという、画期的なものではある)の残響は、倍音とはちょっと異なって聞こえ、中低域が鳴りとは違うところでもたついている気がした。やはり、ボディを叩くための開発なのか。

 ●昨年のDVDにもなっている冨田ラボのコンサートの際、リハーサル中、件のアコースティック・ギターの調整不足で(サドルのピッチを合わせたのだが、かなり正確にやったらしく、逆に弦が切れやすくなった)急遽、高田漣君にテイラーを借りた。漣君もエンドースで借りているものだったのだが、ラインアップではほぼ最上級のもので80万くらいと言っていたか。音は悪くは無いが、ラインもまあ悪くは無いインブリッジピエゾの音。ただ、ルックス的には、自分には似合わなかったらしい。

 
 要するに遥なる問題なのだ。今日はこの辺で。

04:27:10 | skri | No comments | TrackBacks