Archive for July 2005

06 July

HSW


 録音の際に玄さんに試させてもらった、LOVEケーブルを購入しに、前々から気になっていた、広尾のホンダサウンドワークス(HSW)に行く。目的はLOVEケーブルだけではなく、録音用に使っているケンドリックのツイードデラックス・タイプのリペアもかねてである。
 このケンドリックのアンプ、音はワイルドで歪みの感じは気に入っているのだが、故障が多く、本番中に逝ってしまった事も過去二回。それ以来ライヴで使う事は無くなった。それに、今自分が、良く関わっているものと照らし合わせると、音量や音質の設定が微妙だ。ロンサムストリングスや小松亮太君では音が大きすぎるし、シカラムータでは少し心許ない。ストラーダや高田漣君では歪みすぎるのだ。が、レコーディング・セッションでは、調子が良い時は素晴らしく、幾人ものレコーディング・エンジニアに太鼓判を押された。
 調子が良い時は、とあえて書いたのは、調子が悪い時が少なく無いからなのだ。悩まされるのが、ノイズ。真空管アンプは確かにトランジスターに比べノイズは多いのだが、このアンプはかなり電源状況に左右されるのか、ノイズがひどいときとそうで無い時の差が激しく、おまけに抵抗が原因とおもわれるボソボソ・ノイズも出たり出なかったり。
 それでも、過去数度のリペアでかなり改善はされた。足立区Tや吉祥寺AのK氏には大分お世話になった。特にK氏のチューンアップや真空管の選択により、オリジナルのケンドリックに比べ、数周りグレードアップした。GE(パワー管)とRCA(プリ管)の相性はよく、リコーンしたものではあるが、オールドジェンセンのアルニコ・スピーカーは歪みながらも上品に鳴ってくれた。(オリジナルのケンドリックのフェライトも悪くは無い。こちらの方がワイルドで迫力がある、とも言える)
 ただ、いかんせん音が良くても、ノイズが多くては使えない。この間の録音でも、突如としてノイズが暴れたかと思うと、数分後にはおさまる、という状況。

 で、今回は早速HSWのH氏に診断してもらう。状態を話すと、H氏はいきなり「それはケンドリックの弱点」と一言。そう言えば、吉祥寺AのK氏含め、このアンプを直した方々全てが口を揃えた様に「ケンドリックは案外やわで、パーツの質は悪い。だから耐久性に欠ける」と言っていたのを、思い出す。このアンプを手に入れた10年くらい前の頃はまだフェンダー・ツイードのレプリカはそう多くは無く、ポイント・トゥ・ポイントのロスのない音圧にとにかく驚き、購入した。買ったばかりのアンプを持って、レコーディングに行くと、今は冨田ラボの冨田さんもケンドリックのTVタイプを購入したばかりで、二人でこのアンプの音圧に驚いたものだった。
 その後、何だかんだと使い続けてはいるが、先程の「耐久性に欠ける」という言葉は、その後のリペアの数で嫌と言う程わかっている。
 またしても、同じ言葉をH氏から聞かされた訳だが、「とりあえずチューブを点検しましょう」とその場で作業を始めてくれる。「良いチューブが入っていますね」と言いつつも、「パワー管がもうダメですね」とあっさり。交換してから2年も経ってはいないし、その間も使用頻度はかなり低かったにも関わらず、だ。「NOS(ニューオールドストック)チューブは使ってみないとわからない物も多いです。どんなに良くても直ぐに逝っちゃあね、TUNG-SOLかSOVTEKを入れてみましょう」。私は内心「TUNG-SOLかSOVTEKかぁ」と思うが、それを直ぐさま見透かしたのかH氏「現在、品質が安定しているのはTUNG-SOLかSOVTEKなんです、GROOVE-TUBEは供給が安定しているだけですよ。自宅の部屋で時々、極上の音で楽しみたいのであれば、NOSチューブの良いものをつけますが、そのチューブが終わったら、そのトーンもそこまでです。現場で使うなら、安定を選ぶのが得策かと」ごもっともである。そして、続けて「キース・リチャーズのアンプ・テクニシャンが言っていたのですが、”SOVTEKでも鳴らしてみせる”と言っていました」笑いながら言っていたが、プロの言葉だ。私はその言葉をH氏の言葉と受け取った。
 TUNG-SOLのマッチド・チューブを付けると、ほぼ問題は解消したような気がした。そして、もう一つ音には影響は無いのだが、パイロット・ランプの点灯が不安定な事を告げると、H氏は「ここで一つ実験してみましょう」と言い、別のパイロット・ランプを取り出し、取り付けた。
 驚いた。音が変わったのだ。倍音が明らかにふくよかになり艶がました。もう一度元のパイロット・ランプに戻してみる。私が「こっちの方がヴィンテージって感じがあります」この高域が少し耳に着く、少しの情けなさは嫌いでは無い。が、H氏曰く「それはあくまでもヴィンテージ感です。しかも昨今うたわれている」まさにそうだ。しかし、500円のパイロット・ランプでこんなにも音が変わるものかと、本当に本当に驚く。そしてH氏はざっくばらんだが、その佇まいは名医そのものだ。
 そして、先程の「ケンドリックの弱点」という言葉も蘇り、もう一歩踏み込んでみる。耐久性を高めるべく、チューンアップを依頼するが、「トーンは変わりますよ。前のトーンは戻らないし」と言う。思案していると「でも、悪くはしません、チューンアップですから、良くする為に手を加えるのです」そして「悪くなるような仕事は引き受けません」と、笑いながら付け加えた。
 私は完全にH氏の一ファンになった。

 しかし、考えてみれば、私が何時もお世話になっている、他のリペアーマンの方々も同様に私はファンなのだ。吉祥寺AのK氏、東久留米SのO氏、国立SのHa氏。彼等もH氏同様、一家言ある職人だ。もともとが専門的なのだが、かなり踏み込むと、専門的すぎて、私も言葉に窮することもある。そんなときでも、やはり信頼があるからであろう、彼等は予想以上の仕事をしてくれるのだ。

 こちらは我が儘ばかりなのだが、彼等のお陰でやっと成り立っているのだ。ありがとう。

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