Archive for October 2004

24 October

Lonesome Strings -vol.2- new lost city ramblers ●text 其の三●



5. もう森へなんか行かない -Ma jeunesse fout le camp-

 もともとこの曲を取り上げたのは、私のただの思いつきでレコーディングする程でも無い、とも思っていた訳だが、ライヴで数回演奏しているうちに、この妙なブルーズっぽさが面白くなってきた曲だ。
 オリジナルはフランソワーズ・アルディで、私が持っている音源は家内が随分昔に買ったベスト盤。オビにはTBSドラマ『沿線地図』主題歌「もう森へなんか行かない」収録、と書かれてある。この『沿線地図』というドラマは1979年の山田太一原作、脚本のもので、私は毎回という訳では無いが、一応最初から最後まで観た記憶がある。出演者は岸恵子、河原崎長一郎、真行寺君枝、児玉清、河内桃子、広岡瞬、笠智衆、他。この前作『岸辺のアルバム』と似たテイストだが、『岸辺〜』ほどには、夢中にはならなかった。
 '79年、高校の頃といえば私は地元の先輩らとブルーズ・バンドをはじめていたし、学校帰りにジャズ喫茶に寄り道したり、の頃だ。当然音楽的興味の大半はアフロアメリカンのものが中心で、リアルタイムのロックやポップスからはちょっと遠ざかる頃なのだが、ふとした時に隙間に入ってくる自分の音楽的興味とはかけ離れて好きな曲というのもあって、このアルディの曲はまさにそんな曲。他にも、当時叔父に借りて良く聴いていたジョルジュ・ムスタキや図書館で借りたジャニス・イアン(『岸辺〜』の主題曲はWILL YOU DANCE)等もその部類だろうか。それらのものは、自分がプレイするにあたって何か影響されたとか、育まれたとかそのような事は多分全く無く、時々ただ聴いていただけなのだ。だが、今思い起こせば育まれなかった分なのか、私にとっては最新のノスタルジーで、昭和が終わるまであと10年はあるのだが、最後の"昭和感"につながるとも言える。
 後は少しアレンジして、皆で演奏したら、あからさまだが見事にこうなったので、今回のレコーディングではより明確にする為、玄さんにウクレレのダビングをしてもらう。
 松永さんのsticks beating on bassとは、タンゴで良く使う弓でベースの弦を叩く奏法。
 何だかんだ言いながら、最近では必ずライヴでやる曲の一つになってしまった。



6. Buck Creek Girls

 ロンサム・ストリングス結成の動機の一つでもある「ANTHOLOGY OF AMERICAN FOLK MUSIC」との出会いや'20〜'30年代の北米ストリングスバンド、そしてマウンテン・チューンへの興味やリスペクト、そう言ったものをこのアルバムで具体化させるのは、実は少し時間がかかった。前作ではごくシンプルな動機で「ANTHOLOGY OF AMERICAN FOLK MUSIC」からミシシッピのストリングスバンドFloyd Ming's Pep Steppersの「INDIAN WAR WHOOP」をカバーしたのだが、ライヴを何回か重ね2年程経つうちに当初のコンセプトはほとんど意識しなくなってきていた。しかし、私はどちらかと言えば、一度やったことをもう一度やりたがる、ようで2ndアルバムにどうしてもマウンテン・チューンが必要だと考える様になり、ROSCOE HOLCOMB、BILL CORNETTからNEW LOST CITY RAMBLERSに辿り着き、この曲を選び、とりあえず録音することにした。
 ベーシックの録音は速やかに終わった。当初monkeyloop(猿のおもちゃのシンバルだけで作ったループ)を多用したアブストラクトな長いイントロだったのだが、自宅で作業しているうちにすぐに飽きてしまった。
 そして、その頃Ry Cooder 『MAMBO SINUENDO』を聴くのだが、もちろん嫉妬した、やられたと思った。が同時に、NEW LOST CITY RAMBLERS〜Ry Cooder〜Manuel Galbanと繋がったのがヒントになり、この曲をよりシンプルに力強くする方向で松永さんのバイオリンを加えたりと手直し。
 原さんは5弦バンジョーのリゾネーター(ボディの裏の部分)を取り外し、クロウハンマースタイル(フレイリングとも言う、スリーフィンガーではなく右手を叩き付けるような奏法)で正調にやっているが、玄さんの歌い口、松永さんのビート感と無骨なバイオリン、私はエレキギターに前に張り付いたマンドリン、落ち着きのないループ、そして土井君のミックス、それらが相まってかなり変なものになったと自負している。
 この曲と「Shady Grove」及び最近一緒にやる事が多い「Cluck Old Hen」(原さんvo)についての別の話はまたいづれ。


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23 October

Lonesome Strings -vol.2- new lost city ramblers ●text 其の二●



3. Jessica

 ピアソラの曲がどういうわけか「made in U.S.A.」というタイトル(このタイトルもこの曲をとりあげた一つの動機)なので、ならば次の曲はこれしかなかった。バラカンさんのインタビューでもこの曲の話になったのだが、私にとってはALLMAN BROS.の代表曲の一つというよりも70年代後半のアメリカのジングルみたいなもので(でも、ALLMANのライブ盤『熱風』のJessicaは大好きだ。チャック・リーベル最高)当時、FENで本当にジングル代わりに良くかかっていた。ALLMANとかC.C.R.等々、本当にシンプルに無垢にロックンロールを楽しむというアメリカ人がある意味うらやましく、少しはそんなものにもあやかってみたい気持ちも無いわけではないのだ。ああ、こう書くと非常に微妙だが、聴いていただければわかるだろう。
 この曲の録音中、土井君は大喜びで「ディッキー・ベッツに聞かせたいなぁ」なんて言っていたが、私としては、ベッツさんに聴いてもらって、一発殴られて、バーボンでも奢ってくれたら本望である。
 そして、軽々とこの曲の爽やかな部分を演出したのが、原さんのプレイだ。



4. 沼 -swamp-

 私のオリジナル曲だが、初出では無く、STRADA『TEXAS UNDERGROUND』で既に発表済みの楽曲で'96年頃に10数分で一筆書きの様に作ったものだ。STRADA版はNEIL YOUNG「HARVEST」を思い起こさせなくも無いシンプルな8ビートだが、此処では大幅にリズムアレンジして、キーも弦楽器用にGにしてある。(もともと作曲時はGだったのだが、STRADAで演奏する際に管楽器用にB♭にしたのだ)
 前半のスローパートは私と玄さんと松永さんの3人で演奏。かなり遅くて焦れったく感じる方もいるかも知れないが、そこは狙い目。そして、我々は遅いテンポが性にあっているのか、特に苦もなく数テイクでOK。そしてこの後のアップテンポ・パートから全員の演奏になるが、ここからは少し丁寧にテイクを繰り返した。最初から決めていた事は、この曲の録音の際は絶対、打楽器類を入れないという事だ。そして、ノーダビングでも気持ち良く成り立つベーシック・テイクを吟味した上で最小限のダビングをした。原さんのナイロン弦バンジョーと私の六弦テナーウクレレと最後の少しエレキギターだ。このダビングの意味は少しのペンギン・カフェ感。ただ、グルーブ感は違う次元のものにしたかった。此処に来る道のりとしては1stの「african marketplace」それから、打楽器を微かに入れた(原さんのバンジョー・ドラムと松永さんのベースを叩く音だが)オムニバスの「Here comes the sun」そしてこの「沼」に辿り着く。さらに、この手法は此の直後、よりカラフルなやり方でパーカッションも使い、ダビングも多めで、遊びもたっぷりのLonesome Strings featuring 朝日美穂「LONESOME COWBOY」につながっていく。
 玄さん(田村玄一)のメロディは果てしなく気持ち良いが、全てを支えるMAIN MAN松永さんのプレイはさすがの一言である。


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20 October

Lonesome Strings -vol.2- new lost city ramblers ●text 其の一●



1. Ground

 このアルバムの中では、ほぼ最初の頃('02 5月)の録音で、全員が生楽器でベーシック、至近距離で演奏した。エンジニアの土井君もまだ少し手探り状態だったが、あまり演奏する事無くこのテイクが録れてしまった。ちょっと強引なタッチと椅子が軋む音が入っているのが決め手。だが実はこのテイク、全員の演奏直後、スタジオ外の路上でトラックがバックして、警告音(ピーピーピー)が録音されてしまった。だいたいの意図しないノイズには寛容なのだが、これはかなり気になり、口苦い思い。清清しいテイクだっただけに、メンバー全員実に残念がり、その後2テイク程演奏してみたが、どういうわけかもはや椅子の軋み音は鳴らず、演奏も悪くはないがレイドバック感増す。なので、とりあえずこの警告音入りをOKテイクにして、アルバム全体像の中で再考する事にした。後半に少しだけエレキギターを重ね、その状態で翌年まで寝かせてあった。アルバムの曲もほぼ出揃った頃、「made in U.S.A.」とつなげる事を思い付き、曲エンディングにSEをいろいろ重ねる作業をする。当初、かなりの数のSEが入っていた。列挙すると、虫の音、街のノイズ、ディーゼル音、電線ノイズ、等々。だが、どれもトラックの警笛音を目立たなくさせる為のものでしかなく、音楽的な久下惠生さんのシンバルのみにすると俄然見え始めた。曲タイトルはJohn Faheyに捧げる意味でRED CROSSという仮タイトルが付いていたが、タイトルをもう発表する事のない自作を流用し、聴いた人なら絶対わかるであろうJohn Fahey『VOL.6 DAYS HAVE GONE BY』より汽笛の音をサンプリングした。ただ、それで完成と言うにはまだ道のりがすこしあり、ある事情によりこの曲のみ土井君と私の二つのミックスバージョンがあるのだが、やはり空気感が濃密でかつナチュラルな土井君のMIXを採用。そして、高橋健太郎さんの力を借りやっと完成した次第。録音自体はすぐに終わったのだが、その後の紆余曲折がかなりあった曲である。



2. made in U.S.A.

 Astor Piazzollaの彼自身も他の誰も録音しておらず、楽譜だけが残っている1960年の曲。この曲を教えてくれたのはもちろん小松亮太君で、彼が偶然本郷の楽譜店で譜面を発見し、2002年の小松亮太プロデュース「ピアソラ別伝」でも演奏された。おそらくその時が世界初演だと思うが、編成はbn,eg,eb,dsでピアノ譜をegにアダプトしたくらいで割と楽譜に忠実に演奏。とはいえこの曲、もともとなんか変なラテン味があり、そのあたりが妙にそそられるのだ。その後、とあるラテン系のコンピレーションの話があり、この曲を考えていて小松君に相談したのだが、すぐに企画は流れた。そして翌年、このアルバムの録音の最終盤に急遽、スティール・ギターの音色にピンと来て録音。全編に聴こえるふざけたドラムスは私がバスドラムやタムを一つ一つ別々に録ったもので、ふくだげん君にサビ部のエイトビートを重ねてもらった。ただ、私が既にバスドラムを録音してしまったので、彼は上半身だけでロックしなければならず、少し苦労をかけたが、快くつきあってくれた。感謝!
 そして、2004年の小松亮太君の力作『タンゴローグ』では再びアレンジを施し、ロンサムストリングス3/4(アレンジ上の問題で原さんは不参加となってしまった)がサポートの中心となり収録された。こちらは素晴らしいバンドネオンでこの曲をどんよりとリメイク。合わせて聴いていただいても楽しめるはずだ。


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