Archive for July 2013

30 July

今日のレコード 10


 Richard & Mimi Farina / Memories (1968)

 またまた吉祥寺ハバナムーンの話から始まるが、少し前に店主の木下君からレコードを一枚いただいた。Plainsongの『In Search of Amelia Earhart』、彼らの1stアルバムだ。この店では幾度となく聴いていたアルバムだが、このほど木下君がこの盤のオリジナルプレスを購入した事で、今まで店でかけていた国内見本盤のこれを私に譲ってくれたのだ。初回のオリジナルプレスは確かに良い。そして、70年代初期の国内盤プレスはあまり良く無いものも多いのだが、見本盤はその中でも初回プレスになるので、案外音質が良いものも多いのだ。

 丁寧にクリーニングして聴いてみると、国内盤らしからぬ快活な音。良いではないか。まあ、なにより内容が素晴らしいのだが。そして、レコード内周ではきっちり歪む。

 これがアナログレコード最大の弱点とも言える。これはどう機器をグレードアップしても解決の出来ない問題なのだが、この歪みが顕著なのものとそうでは無いものがある。おそらく、周波数的な情報量の差だろうが、トータルレベルも関係している気もするのだ。内周で歪みが目立つ盤の外周はとてもはっきりと鳴っているものが多いように思うのだが、どうだろうか。

 それはさておき音楽の内容には関係ない。内周がそんなに気になるのであればCDを聴けば良いのだ。

 さて、Plainsongの良さを再認識したおかげで、Ian Matthewsの『If You Saw Thro' My Eyes』に行く。これも久しぶり。ジャケットを開くのは10数年振りか。そういや、リチャード・ファリーニャの曲が入っていたな、なんて事を思い出していたら、B面にもファリーニャの曲があった事にようやく気がついた。「Morgan the Pirate」マシューズは4拍子でやっているが、オリジナルのRichard & Mimi Farinaは6/8拍子。マシューズ版はリチャード・トンプソンを差し置いてのティム・レンウィックの落ち着いたギターが見事。(ちなみにLee Morganのそれとは別曲)

 そして、その「Morgan the Pirate」が収められている、Richard & Mimi Farina『Memories』へ。リチャード&ミミ最後のアルバムだが、これはリチャードの死後にリリースされた未発表テイク集。だが、このアナログのジャケットは良い。思わずジャケット買いした一枚だ。(CDはミミのバストアップにトリミングされてしまったのだ)

 ミミ・ファリーニャは残念ながら私には行き届いた歌手としての認識は薄いのだが、彼女がソロで歌ったものはとても特徴を生かしていて、心を奪われるものも多い。線も細く、押しも弱く、声の頼りなさが印象的で、しかもこのアルバムのB面中盤には姉のジョーン・バエズも登場してくるので、ミミは確かに分が悪い。が、ここでの「Morgan the Pirate」はやはり素晴らしい。Grady Martinがアレンジを担当し、ensemble ledというクレジットがあるが、おそらく演奏はナッシュビルAチーム周辺、間奏の突っ込み気味であおるエレキシタールと時折の確実なエレキギターはGrady Martin本人であろう。なにより、ミミの声をダブルにした効果は抜群で儚げな力強さはメロディーを重ねる毎に引き込まれてしまうのだ。

 もともと、この『Memories』というアルバムは、ミミのソロもしくはリチャードのトリビュートとして計画があったらしい。どちらにするか決まらぬまま、彼女はソロの録音を開始し、その一曲がこの「Morgan the Pirate」(もう一曲が冒頭の「The Quiet Joys of Brotherhood」でこちらは「My Lagan Love」の改作)。で、どういう訳か当初の計画はどちらにも転ばずこの『Memories』という、アウトテイク、新録、ライヴ音源、ジョーンバエズの音源、が交ざったなんとも中途半端なアルバムになってしまう。プロデューサーの名前はクレジットされていないので、突貫工事的で契約上の問題もあったのかも知れない。それでも彼らの多様さは垣間見えるし、その後のアメリカーナ的解釈も荒削りながら、面白い。

 問題というか、結果オーライなのだが、この「Morgan the Pirate」はA面最後。最内周なのだが、Grady Martinが作ったこのドライブするオケとミミのダブルトラックの歌声が内周の歪みにとてもマッチしているというのは、おそらく偶然だろうな。


 


 (Farinaのnには~がつくのだが、ここではスペイン語が文字化けするようなので、nにしました。ご了承を)



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29 July

今日のレコード(棚 )9


 ようやくレコード棚が完成した。数々の仕事の合間に、塗っては磨き、また乾かし、と結局2週間程かかってしまった。レコードがリビングに溢れる状態が続いていたのだが、やっと落ち着いた。

 所有の全レコードを収めるつもりだったのだが、甘かった。100枚程のクラシックと150枚程の邦楽ロック、歌謡曲は別棚にして、新しい棚に少し余裕を持たせることにした。

 折角なので今回、レコードの並べ方を変えてみた。中米、南米、アフリカ、アラブ、アジア、沖縄、ハワイ、欧州辺境、純邦楽、以外は全てアルファベット順にした。たとえばFなら、フェアポート・コンベンション、ファイアファール、フィッシュボーン、 ファイヴ・ドゥトーンズ、ファイヴ・ハンド・リール、エラ・フィッツジェラルド、ロバータ・フラックという様に並んでいて、なかなかに楽しい。アルバム名義さえ覚えていれば、問題ないのだが、とにかく記憶力を衰えさせないことだ。

 棚の設計もかなりうまくいった。パイン集成材の材料費は15,000円くらいだったのだが、余った端材は1センチ角、36cmの棒だけなのだ。我ながら見事。

 昨日、JJケイルの訃報を知った。とてつもない喪失感。私が知るアメリカン・ロックなんて彼の手のひらくらいなもので、しかもそこは精巧なジオラマなのだ。いつ聴いても新鮮で、新発見も枚挙にいとまがない。金太郎飴なんて比喩もされているようだが、とんでもない。知っていても感じ入って笑ってしまう落語の様なものとも言えよう。そして、毎アルバム音像が変で微妙に変化しているのだ。これはレイドバックじゃないよ。奴の箱庭にだまされているのだ。

 ケイルについてはまた改めて書こう。今日は棚が完成してから、ナチュラリーとトルバドール、そしてCDだがナンバー10を聴いていた。ナンバー10は彼のキャリアの中でとても重要な一枚だと思っているが、実は3枚程聴いていないアルバムもある。やはりアナログを探す事にしよう。


 


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21 July

今日のレコード 8


 Carla Bley・Paul Haines・JAZZ COMPOSER'S ORCHESTRA / ESCALATOR OVER THE HILL [3LP] (1971)

 またしてもレッスン帰りにハバナムーンに寄り、軽く一杯。土曜日の20時過ぎだというのに客は私のみ。という事で、マスターの木下君と話が弾む。

 私が最近手に入れたストーン・ポニーズのファーストアルバムがオリジナルのモノラル盤だった、なんて話から木下君がレコード棚からリンダ・ロンシュタット関係のアルバムをいくつか出して来て聴かせてくれた。アン・サボイとのアルバムがとても良い。ロンシュタットはこのデュオアルバムでリチャード・トンプソンのキング・オブ・ボヘミアを披露していて、これがまたグッと来る、と思いつつ、酔いも少し回りつつあるか。

 私は然程熱心なリンダ・ロンシュタットの聴き手とは言えないが、アサイラムからのアルバムは6〜7枚は持っていて、どれもそれなりに愛聴したのだが、実はロンシュタットの存在に一番驚き、しかも納得したのが、このカーラ・ブレイのアルバムなのだ。

 所謂フリー・ジャズの流れの名盤としてディスク・ガイドに載っているジャズ・オペラの本作だが、フリーと思わしき部分まで相当スコアに書かれている事は想像に難く無い。が、2面冒頭のドン・プレストン(マザーズ)参加の一曲等は全くどうやって作ったの?って感じだ。

 ざっくり言うと、主演はカーラ・ブレイとジャック・ブルース、ゲスト・スターにリンダ・ロンシュタット、ドン・チェリー、ジョン・マクラフリン、ジーン・リー、冴える脇役にポール・ジョーンズ(マンフレッド・マン)、ガトー・バルビエリ、ドン・プレストンら、ボトムはチャーリー・ヘイデンとポール・モチアンが締めるが、ジャック・ブルースはベースでも大活躍である。が、とにかく参加ミュージシャンは多い。

 このアルバムの成り立ち等は検索していただければ、すぐに見つかるし、Youtubeにいくつかの音源もあるので、これ以上の説明は不要であろう。

 さて、リンダ・ロンシュタット。どういう経緯でここに参加しているかは分からないが、まあ周りがこのメンツなので、とても興味深く思ったのが最初の出会いだ。それがこの盤を手にしたかれこれ20年前くらいの話だが、今でもこうやって聴き返してもその違和感が面白い。彼女が登場するのは3面途中からなのだが、まず第一声にやられる。いきなりの無垢が全てを持って行く瞬間である。やはり歌う為にこの世にいる人なのだ。久しぶりに聞き返した今でも鳥肌が立つ。そして、その後有象無象のコーラスが入って来て彼女は巻き込まれ、ロフトの人々にのまれる。ブレイの台本どおりであろうが、相当なエネルギーが渦巻く中での一場面、ますます聴き進んでゆく。

 この三枚組で、彼女の登場は3曲程だが、とにかく初登場の一曲目で釘づけになった。ただしそこだけではなく、やはり最初から聴くのが筋というものだ。ボーン・マシーン以降のトム・ウェイツなんか相当このアルバムが見え隠れする。

 ブックレットのロンシュタットの写真にシルバー・パネルのデラックス・リバーブが写っているのだが、そのアンプのケースにLINDA RONSTADTの文字が見える。という事は当時のバックバンドもここにいたのであろう。か、たまたま同じスタジオの違う部屋だったのか、なんて想像も出来なくは無い。

 ともかく、どんな場面でも歌姫であることを痛感したアルバム。そしてやはりこの時のカーラ・ブレイの才気たるや、凄まじいもので三枚組を聴き通してしまったのだ。


 

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19 July

STRADA set list


 7/19 ストラーダ 演奏曲目

 第一部
 1. 幻の港
 2. 幼年期の始まり
 3. 身それた花
 4. 渥美清の孫悟空
 5. ウィスパリング
 6. 二十世紀旗手
 7. モナミ

 第二部
 8. 淵
 9. プリモ
 10. てぶくろ
 11. 山道
 12. 伝説列車
 13. スウェーデンとルーマニア二つの民謡

 アンコール
 en1. 沼
 en2. セクシーツイスト

 
 ご来場誠にありがとうございました。


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12 July

今日のレコード 7

 
The Carter Brothers / Southern Country Boy [7inch single] (1964) 

 実は7インチに手を出す事はほとんど無い。SPも78回転がかけられない、という理由のみで同じく手を出さない。正直言うと嵌りそうで嫌だし、そんな財力もなし。

 今日このシングルを聴いたのには訳がある。そうでなければ、この灼熱の午後に真っ先に聴きたいと思うものではない。

 実は、レコード洗浄液の調合を間違えてしまったのだ。万能洗剤「松の力」を500mlくらいの精製水で1/20くらいで薄めて作る事ところを、間違えてアルカリ電解水に洗剤を混ぜてしまった。確かに洗浄力は増すのだが、これだとしっかり洗い流さないと、盤面に洗浄液のカスが残ってしまい、逆効果だ。とは言えもったいないので、実験も兼ね、洗剤をもう少しだけ濃くし、水で洗い流す洗浄方法を試す事にした。ただその前にドラッグストアに行き、極細の歯ブラシを買って来た。ラベルは濡らさない方が良いのだが、素早くやれば問題無し。

 と言うわけで、所有するもので一番汚いと思えるのがこのシングルであった。実はこれは音楽ライターの小尾隆さんがライヴ終了後に持って来て下さったものだ。小尾さんとカーターブラザーズの話をしたことがあったかどうかは覚えていないが、シングル音痴の私でもロマン・カーターのあの声を7インチで聴いてみたい、と即座に喜び、有り難く頂戴した。もちろん賄賂じゃないよ。あれ、評論家から音楽家への袖の下っていうのはおかしな話だな。

 さておき、翌日に早速聴いてみたが、音圧は感じたものの盤が汚れていて、万全な再生が出来たとは言いがたかったので、放っておいたのだ。

 そして、いよいよ出番である。おお、この汚れはのぞむところ。洗浄液をまんべんなく振りかけ、5分程置く。そして、溝に沿って反時計まわりで歯ブラシを滑らせていく。時折少し力を入れ音溝のゴミをかき出すように円周に沿う。丹念にブラッシングしたあとは、水で流す。残留物が全く残らないように、念入りに水を流し、これも歯ブラシを使う。静電気対策には自然乾燥が良いのだろうが、パルプ素材のワイピングがあったので軽く拭き取る。更に念入りに精製水を霧吹き、ベンコットで丁寧に拭き取り、いちおう一時間程自然乾燥。

 汚れはほぼ完全にとれたが、擦り傷はかなり多い。が、それもまた気分である。やはり凄まじい音圧でロマン・カーターの声に暑さが増す。ファルセットの出し方がよく分かっていないんじゃないか、なんて箇所がいくつかあるが、それも含めとにかく初々しい。弟のエレピも絶妙で、正直力が抜ける音なのだが、ローズやウィリッツァーの豊かさとは真逆で、なんだか新しい響きにも聴こえるし、かたやスーパー400らしき格調高きワイルドな音のギターも米南部の不思議さをかき立てる。それにこの鋼鉄のシャウトだ。その他、ホーンセクション、ドラム、リズム・ギターの塩梅は絶妙で、しかもプロダクションがかなりしっかりしていた事は伺えるが、ブレイクで間違えているのはわざとなのか、何なのか。でもこれがまた良し。

 この後にジュエルから、これと同内容でデビューなのだが、という事はこのコールマン盤は案外貴重なものなのかな、と小尾さんに感謝。しかもB面はかつて発売されたアナログには入っておらず、これがまた格好良い。

 ロマン・カーター、2007年にアルバム出していたんだな。Youtubeで聴いたら、あの声だった。嬉しい限りだ。


 

03:49:44 | skri | 2 comments | TrackBacks